ー八重洲にある福島県の観光交流館で
「幻の酒」になるかもしれない大吟醸
「飯館」を売り出すって聞いたから
一にも二にも買いに行かなくちゃって、
買って来たよ。
ーよかったね、買えて。
ーそのとき飯館村の観光パンフあった
からもらって来た。ほら、これ。
ー健康優良児2人って感じだね。見るから
にほのぼのとしたいい村!
ーこの地に「までい」ってことばがある
らしい。中にこう書いてある。
["までい"とは私たちの暮らしに古く
から寄り添う言葉。「時間をかけて」
「手間ひま惜しまず」「丁寧に」
「じっくりと」…といった意味が
あります。来るたびに味わい深まる
飯舘村で"までい"の心を感じて
ください。]
ーなるほど、この子たちも「までい」に育てられたんだね。
きっとお米もお酒も「までい」に作られ、牛たちも「までい」に
世話されてきたんだ。
ー何代にもわたって「までい」の村が作られてきたんだよ。
それが今度の一事でもって突然村を出て行かなきゃならなく
なって…
ーつらいよね。
ーそのことに、ぼくらが無意識にしろ片棒をかついでたって
考えるのはもっとつらい。
ー自粛はやめよう、って言うけど、この子たちにつらい思いを
させている何万分の一かは自分たちにも責任があると思うと
無邪気に元の日常には戻れないわね。
ー少なくともこの子たちが、今までどおり「までい」の村で
「までい」の生活を取り戻せるまで、ぼくたちはその痛みを
忘れるわけにはいかないし、自分たちの生活も変えて
いかないとね。
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