2008年12月30日火曜日

清元梅園路さんの思い出


清元梅園路さんとご縁ができたのは今から約10年前のことです。
宿泊先の京都・烏丸四条からほど近いホテルを出、その日の夕食に
ありつくべく近隣をぶらぶらしていた私は、偶然足下に
「清元」という行灯を出した、しもた屋風でちょっと心ひかれる
店を発見しました。板前割烹と出ているだけで、メニューも
値段も出ていないのでさんざん迷いましたが、一人だったので
思い切って中に入ったところ、もう椅子が上げられ
掃除が始まるという状況で、実は内心ほっとしたのですが
「お終いですか?」と聞いてみました。
すると恰幅のいい女将とおぼしき人が「へぇ、へぇ、
かまいませんで、用意しますさかい、ちょっと待っとくれやす。」
と言ってくださいました。
この方が清元梅園路さんだったのです。

お店は梅園路さんが取り仕切り、小柄で実直そのもののお姉様が
料理を手伝われていました。
カウンターが6席ほど、テーブル1つで、奥に座敷のある小さな
お店です。
梅園路さんは恰幅以上に気っぷもよく、聞けば親の代まで
東京・日本橋におられたのが、関東大震災の後、京都に移って
こられたとか。お店は副業みたいなもので、清元節で名の知れた
唄い手であることを後に知りました。
いなせな江戸風ときめ細かな京風がミックスした魅力的な方でした。

毎年一度か二度、京都に行く度に寄らせていただく程度の客
でしたが、どういう訳か梅園路さんは私のことを気に入って
くださり、いろいろ無理を聞いてくださいました。

一度、松茸の土瓶蒸しをいただいたあと、あまりの美味しさに
感極まって、思わず「あのー、出汁だけでいいですから、
もう一杯いただけませんか。」と口走ってしまいました。
「へぇ、へぇ、よろしおす。」と出してくださったのを見ると
前にも増してたくさん松茸が入っていて、赤面しつつ感激して
いただきました。

また私が呑んベエだと知ると、いろいろ珍しいお酒を用意して
くださり、「今日はこんなんありますえ、どうどす。」と
薦めてくださいました。
ここで初めて頂いた焼酎も数多いのですが、特に「百年の孤独」が
お気に入りになると、毎回必ず新品を1本用意してくださいました。

傍から見ると食い荒らし、飲み荒らしの、どうしようもない客に
見えたかもしれません。
あるとき気がついたのですが、どんなに飲み食いしても勘定が
大きく変化しないのです。大体1万円から1万5千円の間です。
他のお客さんでもっと多く払っている人もいるようなので
梅園路さんに「勘定はどうなってるんですか?」と聞いてみると
「どう勘定つけるかが女将の腕どっせ。」と笑ってられました。

そこでハッと、まるで宇宙の真理のように気づいたのが
「勘定はモノについてるんじゃない、人についてるんだ!」
ということでした。その時一回限りの勘定ではなくて
このお客さんとの今までの付き合い、これからの見通し、
好き嫌い、そういうことすべてひっくるめて女将さんがつけるのが
勘定だと。「一見さん、お断り」の神髄もここにあるのだと。
狭いサークルの中でしか成り立たない方法でしょうけど、
その中では極めて合理的な方法だ合点がいきました。

東京・国立劇場での清元演奏会の様子、宮川町のお茶屋さんに
紹介してくださったことなど、思い出は限りないですが
もう止めましょう。
個人的な想いに長々お付き合いいただき申し訳ありません。

梅園路さんは今年、つつじの頃に亡くなられました。
せめてもう一度梅園路さんのところで楽しいお酒と
美味しいお料理をいただきたかったです。

懐かしい方へ想いを馳せつつ、今年の筆を置くことにします。
みなさん、どうぞよいお年をお迎えください。

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