2010年6月27日日曜日

生きる糧


ー永井画廊の蔡さんの個展が終わったわね。
ー終わっちゃうと淋しいね。
ー展示されていた作品に「糧」という作品があったじゃない。
 革表紙でいかにも重々しくて、西洋の昔のお屋敷の壁を
 占めていたような古書が何冊か積まれている作品。
 あれを見て「糧」ってなんだろうかって考えちゃった。
ー本に書かれた情報が「糧」になるかっていうと、そんな
 ことはないよね。「糧」っていうのは「生きる糧」って
 意味だろうから。
ーじゃ、何が生きる糧になるのかしらね。
ーみんな自分が生きている意味を知りたいじゃないか。
 一体自分は何で生きてるんだろうってね。
 そのことを考え、考え、探しに探しているときに、
 別の人がやっぱりそのことを、もっともっと深く鋭く
 考えているのに出会うと、自分の中の何かの成分が化学反応を
 起こして「生きる糧」になるんじゃないかな。
ー本が「糧」なんじゃなくて、それを書いた人が生きる意味を
 考えに考えてくれたこと、それが「糧」ってことだよね。
 考えに考えた足跡のエッセンスが糧になるってことよね。
ーそう、だから考えに考えられた足跡だったら何だって糧になる。
ー蔡さんの絵も。
ー「何来何去」なんて、何年にも渡って、考えに考えられている
 足跡そのものの作品だからね。「自分はどこからやってきたんだ?
 自分は何者でどこに行こうとしているのか?」そのテーマの中に
 生命の誕生以来途切れることなく自分にまで続いてきたいのちの
 流れの不思議、同じ時代を生きる70億人の同朋のひとりとして
 自分が存在することの意味を問い続けようという決意が
 表れているじゃないか。
ーこういう言い方すると不謹慎かもしれないけど、蔡さんの
 命尽きるまで「何来何去」は描き続けてほしいわね。

2010年6月13日日曜日

ベルベルの男


永井画廊の蔡さんの展覧会に「ベルベルの男」という
 彫りの深い表情が印象的な男のドローイングが出てたけど
 「ベルベル」って何なのかしらね?
ベルベル人って、モロッコにアラブ人が入ってくる前から
 住み着いていた民族らしくて、今ではモロッコの山間部に住んでる
 人が多いそうだよ。「ベルベル」というのはギリシア語の
 「バルバロイ」に由来するらしい。
ー訳のわからないことばをしゃべる人たちという意味の
 「バルバロイ」ね。でもどうして蔡さんの絵に登場するの?
ー蔡さんはこの5月にモロッコにスケッチツアーに出かけていて
 そこで出会った人たちなんだそうだ。
ー確かに深く皺がきざまれた意志的な表情は人をひきつけて
 離さない魅力があるわね。
ーベルベルの人は過酷な自然環境の中、ヨーロッパとアラブが
 入り乱れて興亡を繰り返した地で、相対的な弱者として
 忍従と屈服の歴史を強いられてきたそうなんだ。
 そうした民族の苦悩の歴史がその皺に刻み込まれているとすれば
 その表情を描きとることは、蔡さんが追求する「何来何去」に
 相応しいテーマだよね。
 

2010年6月6日日曜日

システム党VS個人党


ー鳩山さんの最後もあっけなかったね。
ーあっけなさでいえば細川さんの最後とイメージがだぶるね。
 首相在任期間もこの2人はほとんど同じじゃないか。
ー重なるといえばもう一つ、両方の辞任劇ともに小沢さんが
 深く絡んでるってのも同じだね。
ー細川さんのときは、官房長官だった武村正義さんと与党幹事長
 小沢さんの対立が抗争といえるほど激化して政権運営がにっちも
 さっちもいかなくなり、そこに自分のスキャンダルも重なって
 もうイヤになって投げ出したって格好だったな。
ー今回、直接の引き金になったのは普天間問題だったけど、鳩山さん
 にとっては小沢プロブレムも度し難いものがあったんだよ。
 はっきりクリーンな民主党に戻ろうと宣言して、小沢さんを
 道連れに辞めさせたんだからな。乾坤一擲の大勝負だったと思うよ。
ー武村さんは目指すべき国家像として「小さくともキラリと光る国」
 という本を書いてるね。思うに旧民主党から来てる人たち、
 鳩山さん、菅さんを筆頭に、前原さん、仙谷さん、野田さん
 枝野さんといった人たちは多かれ少なかれこのDNAを引き継いでいる
 と思うんだよね。
ーというと?
ー武村さんは、これからは「大国」めざすより、その中で暮らす人が
 豊かな気持ちで安心して暮らせる、そんな国を目指すべきだ
 と言ってるんだ。一言でいうと個人ひとりひとりを大事にする
 政治ってことだね。
ー小沢さんはその対立軸にあったってことかな?
ー小沢さんはパワーポリティクスの権化だからね。
 世の中、組織と組織の権力闘争で動いてるんだ。個人はそのための
 マシーンにすぎないと考えてると思うよ。
ー村上春樹言うところの「個人とシステム」の対立だね。
ー今年2月に行われたインタビューで、武村さんは民主党内にある
 その対立軸を「渡来人VS原住民」と言ってるね。
ーいままでは官邸=原住民=個人党、党本部=渡来人=システム党
 だったわけだ。
ーでも思うんだけど2大政党の対立軸が個人党VSシステム党になれば
 ずいぶんすっきりするんじゃないか。この間を行きつ戻りつ発展する
 社会というのは、ある意味望ましい社会なんじゃないかな。