2012年1月23日月曜日

生ぎろよ!


ー毎日新聞が被災地サポート記事を集めた「希望新聞」を毎日
 はさみ込んでいて、その中で萩尾信也記者が「三陸物語」を
 長期連載しているんだけど、今の「母の遺言」の話が頭を
 離れなくてね。
ーどんな内容なの?
ー大船渡に住んでいた家族の物語なんだけど、地震が起きたとき
 年老いた両親と妹、ダウン症で全盲の娘が家に残ってた。
 津波から逃げようと、77歳のお父さんが軽自動車のエンジンを
 ふかして待ってたんだけど娘さんを落ち着かせてうまく車に
 連れていくのに時間がかかったらしいんだよ。
 74歳のお母さんにも病気があり動くのに難渋していたところに
 真っ黒な津波が防潮堤を超えて迫っているのが見えたらしい。
 お母さんは車に向かって「行げ!オラのことはいいがら。
 後ろ振り向かねで行げよ」と叫び、お父さんは車を
 急発進させた。
 お父さんは遠ざかるお母さんの最後の声をはっきり聞いた。
 「生ぎろよ!」そして「万歳!万歳!」と…
ー悲しい話だね。
ーこのわずか数十秒の間にどれほどの思いがこの場にいた人たち
 の心を行き来したか考えると、胸が締め付けられるよ。
ー阪神大震災のとき神戸で倒壊した家の下敷きになった妻を
 救い出そうと、迫り来る火の手の中必死でがれきをどかそうと
 するご主人に「お父ちゃん、もう行って、もう行って、ありがとう」
 と言った奥さんの言葉も忘れられない…
ー震災の死者何万とか言うけど、その何万という数に
 一人一人の物語を埋没させちゃいけないと思うんだよね。
 一人一人の物語を丹念にすくい上げることこそ「生きる意味」を
 考えさせてくれるんだし、それが「忘れない」ってことじゃ
 ないかな。

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