2010年4月11日日曜日

御室の桜


ー小さい頃仁和寺の側に住んでいた。
ー仁和寺ってあの世界遺産の?
ー今じゃすっかり有名になったけど、あの頃は人もあんまり
 来なくて、のどかなお寺だった。
 セミ採りやらかくれんぼうやら格好の遊び場所で
 毎日のように行ってたよ。
ー随分ぜいたくな遊び場所だわね。
ーそんな立派なお寺だとはこれっぽっちも思わなかったし
 出入り自由だったからね。
 でも一年のうち桜の季節だけは入苑料取られるから
 あまり行かなかったなぁ。
ー「御室の桜」ね、JR東海のCMでやってるよね。
ーその時だけは大勢人がきて、緋毛氈の床几が出たりゴザ敷いたり
 してお花見するんだけど、背が低くて八重の桜だから
 桜の雲の中で花と戯れてるって感じになるね。
ー雅でにぎやかそうだわね。
ーその中でも特に楽しそうな人たちがいて、忘れられないんだけど
 チマチョゴリで着飾った人たちなんだ。
ーへぇ、朝鮮の人たちも一緒にお花見してたの?
ーゴザの上で男性は唄って女性が舞ってたりするんだけど、
 チマチョゴリのスカートって裾広がりで色鮮やかにくるくる
 回っていると桜と呼応し合ってすごくきれいなんだ。
ーそうでしょうね、光景が目に浮かぶわ。
ーきれいだなぁ、と思って眺めてるんだけど、でも一方でこの人たちは
 一体どこから来たんだろうって不思議で仕方がなかった。
ーというと?
ーもちろん小学生でも朝鮮の人だというのはわかるんだけど、こんなに
 たくさんの人が旅行で来てるわけでもなさそうだし、自分の心の
 中では文字通り忽然と出現した人たちがにぎやかに花見を
 楽しんでるって感じたんだ。
ーふう〜ん。
ーもう少し大きくなって、この人たちは日本社会の中で普段は
 日本人として生活している朝鮮出自の人たちなんだって
 わかったけどね。それだけに年一回花見というハレの日は
 民族のアイデンティティーを心から楽しむ日だったんだろうと
 合点がいった。御室の桜はそれに相応しい舞台だったんだろうね。
 

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

仁和寺の桜は見てみたいですね。冬の仁和寺しか見ていないので。ゆっくり京都を散策できる時期が早くくることを望んで頑張るしかないですね。仕事に追われ、金に追われ、日常に埋没している現在からはやく脱出していかないと。

Kat-chan さんのコメント...

実は私も40年来御室の桜を見ていません。社会に出るとこの時期は最も忙しく、桜を見に京都に行っている余裕などないですからね。
今は御室でどんな花見が繰り広げられているのでしょう?見てみたいものです。